《プレゼンテーション 第三部 テーマ「ひろがる」》
BEER EXPERIENCE株式会社 代表取締役 吉田 敦史様
「ビールの里 遠野」という言葉をスローガンに、農家の高齢化などからくる地域が抱える問題や、遠野産ひいては国産ホップの減少といった課題を解決しながら、遠野にしかない価値を開発し、今あるビール関連資産を未来へ繋げていく。そういった活動を行っています。
当社の設立は昨年2月。まだできたばかりです。事業内容は大きく3つあります。
1番目はホップの生産です。機械化等を進め、農家一戸当たりの生産量を上げていくのが目標。ドイツでは、ホップ農家一戸で8ヘクタールの生産を行いますが、日本は1ヘクタールが限界です。その解決を図り、ホップ生産の減少を防ぎたいと考えます。
2番目は遠野パドロンの生産。ビールのおつまみとして好適な野菜で、日本のおつまみ文化を変えたいと願って生産しています。
3番目は「遠野ビアツーリズム」の開催です。市域で収穫されたホップでビールを醸造する工場も遠野には2カ所あります。多彩な商品とおつまみ、そしてイベント開催などで日本のビール文化をもっとおもしろくしていきたいと考えております。
株式会社仙台秋保醸造所 代表取締役 毛利 親房様
私は震災後、食の応援をしたいと思いワイナリーを立ち上げました。そして東北の食ツーリズムや風景や文化の協奏を、マリアージュを通して世界に発信する「テロワージュ」というプロジェクトを、今、始めたばかりです。気候・風土と人の営みを表す「テロワール」と、食とお酒の「マリアージュ」を合わせた造語です。
究極のマリアージュは産地にあります。東北で最高のマリアージュを味わっていただきたいというのがコンセプト。
インバウンド需要が増え続ける中で、東北への来訪者は1.4%に過ぎません。でもアンケートを見ると満足度は高く、いちばん多い回答は「食べ物がおいしい」。次に「人がやさしい」「景色がいい」「日本らしさを感じる文化がある」と続きます。
東北では日本酒もビールもワインもウイスキーも作られています。各地の地酒や特産品、蔵人やシェフや生産者と、食・人・風景・文化のストーリーをしっかり伝えていくのがこのプロジェクトです。活動を東北6県に広げ、AIを使ったコンシェルジュサービスなども将来的に整備して、生産地・東北でしか味わえないツアーを体験していただきます。
資金調達では、各地のストーリーやテロワージュをつくるための6県同時立ち上げのクラウドファンディングのパッケージ化も進めています。輸出では、食材だけではなくストーリーごと輸出し、いつかは東北へ実際に訪ねていただきたい。
震災から8年半。絆を強めてきた東北6県が、なお強く連携し合える時期になっていると感じていますし、東北の地方創生にも役立っていくものと思っています。
一般社団法人 東北風土マラソン&フェスティバル 代表理事 竹川 隆司様
なぜマラソン大会なのか? というと、マラソン大会は、ランナーのためだけのものではなく地域活動や社会活動を推進していく大きなエンジンになりうるものだからです。大会は、多くの人が集まってくれるのが特徴。この人たちを活かして何ができるかを考えたいのです。
もともとは復興支援で立ち上げましたが、マラソンで東北と世界をつなげる、というのが我々のミッション。だからランナーじゃなくても楽しめる大会にしたいのです。
いちばんの特徴は、2㎞ごとの給水ポイントに、例えば青森りんご、福島の桃の漬物、気仙沼のサンマ、ホヤなどの「給食」もあります。走るだけじゃなく風景とフード(食べ物)も楽しめる仕掛けです。会場では食や日本酒のフェスティバル、子ども向けイベントなども同時並行で行います。
ランも食も楽しめるし、家族も友だちも一緒に来て楽しめる。今春はランナー6,000人に対して来場者は5万人でした。その人たちが食べて飲んでおみやげを買って地元にお金が落ちる。思い出も残ってリピーターや広告塔も増え、倍々効果で継続的に地域振興につながる。このビジネスモデルはグッドデザイン賞をいただいています。
継続のために、地元中心の組織づくりや人づくり、収支バランスも地元重視にするなど価値の創造を行っています。その価値の創造にこそ「連携」が必要であると考えます。この大会こそがテーブルであり、リアルなプラットフォームだと思っています。みんなの力で東北ファンを増やし、それを世界に広げていけたらと願っています。
《第三部 パネルディスカッション テーマ「ひろがる」》
登壇者:吉田 敦史様 毛利 親房様 竹川 隆司様
コメンテーター:一般社団法人コミュニティキッチン・イニシアティブ 代表理事 堀田美華様
ファシリテーター:千葉 大貴
千葉:
課題となっている点、つながっていきたいパートナーについて吉田さんに伺います。
吉田:
パドロン栽培を始めたころは育成や収穫などに苦労もありましたが、今はハウス栽培に切り替え収穫期も3倍以上に伸びました。ところが、収穫増に見合った販売ルート開拓の対応が少し遅れてしまい、今、新たな取引先を募集しています。
加工品としては、素揚げやフリットの冷凍加工品の販売を拡大していきたいと思っています。また、先ほど登壇された「肉のふがね」さんと一緒に「遠野レッドパドロンチョリソー」という商品も開発しました。こちらへのお声がけもお待ちしています(笑)
さらに、いわき市の萩シェフと共同開発した「ハーブコーディアルシロップ」というホップ生まれのシロップもあります。ビール以外のホップの楽しみを提供いたしたく開発したものです。
ビアツーリズムですが、ホップを知るとビールの楽しみ方が広がります。企業向け視察研修ツアーから、最少4名様から観光客をご案内するバージョンまで3つのメニューを用意いたしました。
千葉:
毛利さんのテロワージュプロジェクトは、始まったばかりですがメディアへの露出も増えています。来年までにどのような状態に持っていきたいとお考えですか?
毛利:
どれだけたくさんの方を巻き込めるか、が大事なことと思います。インバウンド需要が拡大する来年、東北各地にある程度の拠点をつくりたいです。また、商品化できているものを少しずつ情報発信しています。そこには遠野のビアツーリズムも入っています。
今後、我々のストーリーをつくりあげていったとき、どうしても東北へ来られない方には、ワインまたは日本酒と食材、レシピなどをストーリーと一緒にお届けし、次回は来ていただくキッカケにしたいと思います。その辺までは来夏前に整えたいです。
このプロジェクトには仙台市も参加しております。東北6県の情報を一つに集めているということで、各県の首長さんにもご参加いただけたら、間違いなく動いていくプロジェクトですし、経済効果ももたらされるはずです。
千葉:
今まで自治体同士の連携がなかったところに仙台市が動き出し、仙台からお客様を東北各地にお送りしようという事業はとても画期的です。これが皮切りになるのではと感じています。
東北風土マラソンは体制をどんどん変えていくというお話がありましたが、もう少しお聞かせください。
竹川:
私は東北出身ではなく外から通っています。立ち上げから5年ぐらいは、実行委員会の半分ぐらいは外部の人間でした。「広がり」には規模の広がりと時間軸の長さがあって。その時間軸の広がりを考えたとき、地元の人間を増やさなければいけないと思い、20人規模の実行委員を8人ほどに減らして地元の方を主力にして、その人たちに予算を預かってもらうのです。外から通う交通費も不要になり、外に払っていたお金を中に落とすという体勢づくりを行っています。
堀田:
私は東京側でトレセンに参加し、実は遠野へは年に2回ぐらいしか行けていません。
遠野パドロンプロジェクトのキックオフは、東京の代々木公園で開催した岩手県関連イベントのときです。また、池袋での「農業人フェア」では、遠野でホップをつくりたいという就農希望者を実際にスカウトしたこともあります。東京でできることも案外ある、ということをここ5年ぐらいで学びました。
千葉:
外の人間が撤退すると同時にイベントも無くなったり、あるいは地元が上手にバトンを受け取ったり、また、東京からでも遠隔にお手伝いできることもあったり。
これから地元がしっかりやっていけなければいけない、となった場合に、どんな仕組みや体制が必要なのでしょう?
竹川:
まずは権限の委譲です。でも、すぐにするのではない。実際、時間もかかります。風土マラソンの場合、根幹にあって絶対に守るべきものは「食」と「安全」です。でもステージイベントや前夜祭など、すぐできることは地元にお願いし、だんだん根幹にもかかわっていただく。手順も必要です。
もうひとつ大事なのは、リーダーシップが執れる方。人材育成プログラムも行い、東北風土マラソンを一つの学びの場としていただいて、やがて現場で実行してもらったりしています。地元でできる人を増やす。同時に遠くからかかわってくれる人を増やすこともやはり必要です。
千葉:
関係人口を増やす。でも具体的な議論は、今はまだ行われていない気がします。遠野市は、実際に移住者が増えていていますが、そのとき、地元の方と移住者の方々のそれぞれの役割について、吉田さんに伺います。
吉田:
「こんなところにビール工場などを作って人を集めるなんて無理だろう」なんて言われたこともあったみたいです。ホップの生産現場でも今までのやり方を変えて機械化することには、先入観からくる反発もありました。自分たちの活動はまだ始まったばかりですが、新たな参入や投資があった現場では、実際に収穫量や売り上げが増え、投資を回収するといった結果を示し、新たな希望と感じてもらえることがやはり大切だと感じています。
千葉:
関係値や関係人口を増やすという部分では、企業などが人材を育てるために人を派遣する、ということは一つの形ではないかと思います。一方、すでに移住して、新しい事業のモデルケースを作って意識を変えながらも一緒にやっていくという方法や、ネットワークという大きな枠を作って取り組んでいくという方法もあります。
「絆」という言葉。つながって、そして始まって行くストーリーが、今日またこの会場で生まれたらと思います。
《まとめ》
有限会社マイティー千葉重 代表取締役 千葉 大貴
今日のこの場が、何のためにあったのかということ。そして皆さんにお願いしたいことをお話しさせてください。
今日のテーマは「思いのマッチング」と「ビジネスのマッチング」。そして、たくさんのキーワードを頂戴しました。続けていくことの大切さや、現場スタッフとのやり取りなど、間を埋めるようなお話もありました。
お配りしたマッチングシートには、皆さんが興味を持ったプロジェクト名や、思いついた構想などを、一言でも構いません、何かしらのコメントをご記入ください。後日、具体的なコミュニケーションに移行してまいりたいと思います。
今日のこの場では「プロジェクトのコミュニティ化」の兆しが見えてきたのではないでしょうか。これから必要なのは地域や業界を超えたコミュニティづくりです。違った業界の方々でテーブルを囲むことです。
そして、ここからどのようなプロジェクトが実施されるのか。どのような成果が生まれ、将来に向けた体制が作られていくのか。マッチングからコミュニティ化、そして実施へ、前後を含めたプロセスを大切にしながら「東北絆テーブル」を皆様と展開してまいります。
本日のこの「東北絆テーブル」の公式サイトがweb上で公開されます。イベント情報などもありますが、見るだけではインプットとして不十分です。その前後でどんな苦労があったとか、感動した、こんな人が手伝ってくれたといった「文脈」も大事になってきます。コメントや情報をやり取りできるフェイスブックページも用意されていますので、ご活用ください。
来秋には、一年間の取り組みの報告と振り返りができるようなカンファレンスの機会を設けたいと考えています。そして今日ご登壇いただいた皆さんからは、時間の都合でご紹介できなかったご提案も、実は事前にたくさん頂戴しております。ぜひつながっていただき、あるいは実際にイベント会場などへお運びいただけたらと思います。現地を訪ねれば、新しいストーリーやプロジェクトが生まれたりもします。
逆境に遭うほど強く。それが東北の「絆」だと思います。新たに綴られていくストーリーは、今や海外にもつながっています。東北が家族になり、新しい東北が作られ、さらに世界へと羽ばたいていくことを願ってやみません。
《閉会のあいさつ》
キリンホールディングス株式会社 執行役員 CSV戦略部長 野村 隆治
東北の持つ可能性の大きさ、潜在能力の高さが感じられた一日でした。千葉さんは「今日より始まるこれから先が目的です」とおっしゃいました。皆さまのご努力ご活躍をご祈念申し上げる次第です。
当社の仙台工場も東日本大震災で被災いたしました。疲弊する従業員たちを見て、おそらく東北全体がそうであろうと感じました。ならば東北復興の一つの象徴として、復旧・再開を決断。そして「キリン絆プロジェクト」も開始されました。
単なる支援ではなく、その先が大事であると考えました。東北がつながり、全国・世界へ広がり、また東北へ呼び込む。震災前の姿を取り戻すのみならず、新しい東北像を描き出す。皆さまの活動がビジネスとして成り立ち、地域活性の核となって、今をつくり、次の世代へつなげていってくださることを願っております。